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ベンタイン市場でつかまえて

  • 3 日前
  • 読了時間: 8分

更新日:16 時間前


朝になると、ベンタイン市場へ向かった。

ホテルから、歩いて10~15分程度の距離にある、ホーチミン一の知名度を誇る巨大マーケットだ。

どのガイドブックにも載っているような有名な市場であるから、行き方を迷うことはまずないだろう。


食品、雑貨、衣類。なんでもある。ドン・キホーテをイメージするとわかりやすいだろうか。土産物を選ぶ人も少なくないだろう。


雑然としているようで、飲食や衣類など、エリアが分けられていた。混沌と秩序の同居が、活気あふれる市場を創り出しているのかもしれない。


午前6時のベンタイン市場
午前6時 市場はまだ眠っていた。

エネルギッシュな空気に魅せられる中、注意が一つ。

ベンタイン市場を訪れるのは、ほとんどが観光客だということ。地元民はあまり訪れない。

観光客を相手にするこの手の市場は、たいてい「ぼったくり」が横行している。


無論、ベンタイン市場も例外ではない。


適正価格以上で売り付けられることがほとんどであるから、決して言い値で買ってはならず、値切り交渉が必須である。


ほどなく、我々は”ぼったくり”市場の現実を体験することとなる。


サイゴン・オペラハウス
サイゴン・オペラハウス(ホーチミン歌劇場)

まちなみ
ホーチミンの街並み 東洋のパリと呼ばれているのだとか
ベンタイン市場までの道
ベンタイン市場までの道

午前9時。私たちは、ホテルからベンタイン市場まで歩いた。

途中、メトロの駅を見かけたが、どこからどこへ行くのか、時刻通りに走っているのか、調べることはなかった。


高級ホテルが立ち並ぶ通りで声をかけられた。日本語だった。

振り返ると、ワイシャツにスラックスを穿いた日焼けした男性の姿が。


「日本人?」

私たちはほぼ同時に頷く。

「やっぱり。ホテルで見ましたヨ。観光デスカ? お仕事デスカ?」

「半々ですね」私は曖昧に答えた。観光客と見られた方が有利か、ビジネスマンと見られた方が有利か、判断に迷っていたのだ。

「どこ行きマスカ?」

「ベンタイン市場。朝食にね」

「Oh ちょうど私も行くところデス。ネクタイを買いに」

「ネクタイ?」

「そう、ネクタイ。ベンタイン市場は何でも売ってる」陽気なベトナム人は空の手で首元を締めるしぐさをした。

「これから買うの?」

「そう、明日、日本語の試験があるから。私の日本語、まだまだ。日本語できない、お給料上がらない。日本語もっとできる、お給料あがる」


どうやら、彼はホテルで働いているようだ。私は、一度も見かけた記憶がなかったが。


「ベトナムコーヒーは好きデスカ?」

「ちゃんと飲んだことないかも」

「ジャコウネコ、知ってる? ジャコウネコのうんちのコーヒー。うんちだけど、うんちじゃない。とても美味しい」

「ああ、知ってる。有名なやつやね」

「そう、とても高い。でも、ベンタイン市場、安い。高島屋はとても高い。ゼロが一つ違う」


彼の表現に、私たちは笑った。


「そりゃあ、高島屋と比べたらね」

「ジャスミンティーもね。ベンタイン市場、安い。高島屋、高い」

「ジャスミンも有名なんや?」

「そう。若い人たち、通りで冷たいジャスミンティー飲む。みんな飲む。涼しい、おいしい。だから、ベトナムの人は痩せてる」


確かに、昼夜問わず、通りに出したプラスチックの椅子でアイスティーを飲む若者たちを多く見かけた。地元民というより観光客だと思っていたが。


「ジャスミンティーもね。ベンタイン市場、安い。高島屋、高い」

よほどその表現が気に入っているのだろう。

「ジャコウネココーヒーとジャスミンティー、いい店知ってる。連れていってあげます」

一瞬、不穏な風が吹いた。

が、すぐに考えないようにした。陽気でエネルギッシュな彼に、呑まれていたのかもしれない。

「南口は高い。北口の方が安い。時計台があるのが南口。そっちじゃない。案内するヨ」


時計台
中央に見えているのが、ベンタイン市場南口の時計台

陽気なベトナム人に連れられて、私たちはベンタイン市場に入った。


市場の入り口には、制服を着たガードマンが一人、二人。たばこを燻らせているところを見ると、仕事熱心ではなさそうだ。


案内された店は、アオザイが並んだ店の先にあった。

「これがジャコウネココーヒー。こっちがジャスミン」彼は袋詰めされた商品を手渡してきた。

「ちょっと待って、なんぼ?」

「100g 120,000VND とっても安い。隣り、もっと高い。高島屋、もっともっと高い」

「それはもうええて。10万じゃあかん?」

「ダメ。ここは交渉できない店」

「そんなわけあるかいな」

彼はベトナム語で何か言った。

店から出てきた二人のおばちゃんが、プラスチックの椅子を並べ、私たちを座らせた。

「マンゴーは好き? ナッツは? とてもおいしい。安い」

「試食、試食」おばちゃんが、ハサミで切ったドライマンゴーを手渡してくる。

「ちょっと待ちいや。どれがなんぼやねん」

「二人は日本語わからない。ベトナム語だけ。マンゴーは? マンゴー食べた?」彼はすぐに、T氏の方へ話題を変えた。


気が付くと、私たちの前に一人ずつ、代わる代わる接客されていた。

攻防はすでに始まっていたようだ。


「コーヒー600,000VND ジャスミン600,000VND」私の前に戻ってきた男性が言った。

「ジャスミンはいらんよ、最初から」

600,000ドン、日本円で約3600円。1万円しか両替していない私は、そもそも1,200,000ドンも持ち合わせていなかった。

「小さい、400,000VNDもある」

「ちょっと待って。考えてる」


私は財布の中を確認した。

まだ、初日の朝だ。一体ここで、いくらまで使える?


私の思考をよそに、男性は財布の中を覗き込んできた。

「これで、払う。おつり、返す」

男性は私の財布に指を入れ、500,000VNDをさした。


血管の切れる音が、聞こえた気がした。


「ありえへんな」私は財布をしまった。「ちょっとなら買うてもええかと思い始めてたところやけどな。財布覗いてくんのはあかんやろ。もう買えへん」


私は舌打ちするのをこらえた。

が、陽気なベトナム人は気にする素振りを微塵もみせず、めげずに買わせようとコーヒーをすすめてきた。私にとっては、もうそれは、猫の糞でしかなくなっていた。


「もう、行きましょうや」しびれを切らした私は、社長とT氏へ声をかけた。


見ると、二人はけばけばしい色のトートバッグを手にしていた。

「え、買ったん?」

T氏の顔は暗い。


「そう、買ってないの、あなただけ」後ろから、男性が言った。

「そうやな。高島屋で買うわ」

男性が何か言った。私は無視した。


歩き出すと、男性が言った。「こっち、こっち」

「おっちゃん、もうええて。あとは勝手にやるから」

「出口まで送るだけヨ」

「もうええて、ほんまに。ここで。ありがとうね。バイバイ」

ようやく、彼と別れることができた。

無性にたばこが吸いたい気分だった。


「一文無しになりました」T氏が不意に言った。

「え?」

「あれよあれよという間に、財布に手入れられて。残金ちょうど全部とられて……」

「予備の日本円は?」

「ホテルの金庫に1000円くらいなら」

「そら、あかんな。返してもらお」


私たちは再び、あの忌々しい店に戻った。


「おばちゃん、悪いんやけど、さっきの返してくれへんか? 全部とは言わん。半分でええから。back , back , please 」私はT氏の袋からコーヒーとジャスミンの袋を出し、日本語で言った。「金なくなってもうてん。頼むわ。返品さして」


横で、T氏が空っぽの財布をひっくり返す。


嗚呼。

おばちゃんはすぐに理解したようで、ポケットからくしゃくしゃの紙幣を取り出し、T氏に返してくれた。

どうやら、心からの悪意があるわけではないようだ。


「ごめんね、ありがとう」

私たちは礼を言い、市場を後にした。


両替所
ベンタイン市場 北口前付近 込み合う両替所

あれは、ぼったくりだったのだろうかとふと思う。

思い返してみれば、不当な値段ではなかったのかもしれない。想定をはるかに超える量を売りつけられたのは確かだが。

おばちゃんたちは、返品にもごねることなく対応してくれた。きっと、悪意がなかったことも確かだ。


あの日焼けしたベトナム人男性は、私たちと別れたあと、出口から市場を出ていった。ネクタイを買いに来たはずであるのに。


彼は一体、どこへ行ったのだろう?


その後、宿泊したホテルで、彼の姿を見かけることはなかった。

もしかすると、私たちのような観光客を市場へ案内するのが、彼の仕事だったのかもしれない。


彼ら、彼女らは、ただ商売をしていたにすぎない。それが仕事なのだ。

ろくすっぽ下調べもせず、交渉を怠った私たちにも、いくばくかの落ち度はあった。

日本円にすると、それほどの額じゃないから、といった驕りが招いた事態だったのかもしれない。


怒りさえしたが、恨んではいない。いまとなっては――その日のうちに、数時間後には――「おもろかった出来事」だ。

これもこれで、貴重な経験だったのだと思う。


楽しいことが大半を占める海外渡航だが、たった一つのトラブルで、思い出は反対側へ書き換えられる。マイナスの思い出が強くなれば強くなるほど、渡航そのものがマイナスのものへと変換されてしまう。しいては、その国、その国の人々へと矛先が移ることもある。


そんなこと、誰も望みはしないだろう。


楽しい思い出を刻むこと。自分自身の身を守るため、最低限の準備と行動に責任を持つこと。それは、訪問者にとっての最低限の義務なのかもしれない。


このあと、歯が4本抜けたバイクタクシーの運転手に声をかけられ、エロマッサージツアーを組まれそうになったが、笑って追い払った。


「るるぶ」抜粋
「るるぶ」より抜粋。参考に、ぜひ空気を楽しんでもらいたい

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#GM日誌 「ベンタイン市場でつかまえて」


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